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関心を持てる事柄について

『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』を読みつつEM Meetup運営を振り返る

ruby-jpで紹介されていて気になったので読んでみた。本の著者はAWSのコミュニティマーケティングを長年手掛けており、JAWS-UGという馴染みあるコミュニティの実例が数多く紹介されていそうだったのも本を手にとったきっかけでもある。

BtoCサービスを運営する企業で働いているのでマーケティングをかじっても損はないだろうという気持ちで読み始めたが、ミートアップを主催していた者としてはコミュニティ運営者目線で共感できる箇所が多かった。

タイトルの「ビジネスも人生もグロースさせる」がなんだか鼻につくので無いほうが硬派で好きだし紹介しやすいのにと思ったりもするが、新書のマーケティング的には仕方ないのかもしれない。

コミュニティマーケティングとは

まったく知らなかったので改めて整理すると...

製品のファンと呼べる人たちをコミュニティ化することによって、新たな顧客を獲得していくというマーケティング戦略のこと。「コミュニティに売る」のではなく「コミュニティを通じて売る」のが基本。

この文脈においてコミュニティは集まった人が情報を発信・拡散するコンテンツ生成装置(Contents Generator)となる。集まることが目的ではない。

マーケティングでもっとも難しいのは製品を「自分ゴト化」させるところ。マスマーケティングやマス広告はターゲットにリーチできるが、自分に関係があると思ってもらえるかどうかはクリエイティブ次第。一方、コミュニティマーケティングではコミュニティが製品について「自分ゴト化」できる目線で発信・拡散する。この活動がチャーンレート(解約率)を下げ、LTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)を上げていく。

インフルエンサーマーケティングとの最大の違いは、強いメッセージが育つ仕組みと持続性があること。影響力のある人なら一時的には効果はあるが自分ゴト化するメッセージを長く発信してくれるわけではない。

身の回りの実例

JAWS-UGでのコミュニティマーケティングAWSからできたわけではない、他の会社や事業にも再現性がある、というのは本書中でも強調されている。

これまで意識してこなかったが、確かにコミュニティマーケティングの実例は身近でもいくつか挙げられる。どれも成功事例かどうかわからないが。

GitHub CommunityCircleCI DiscussMonzo Communityのような完全オンラインのコミュニティ。オフラインではminneハンドメイドマーケットとか、スタディサプリ合格祝賀会のような自分にとって身近なものが思い浮かんだ。

気になったポイント

完全オンラインでのコミュニティ形成は成立するか

優れたコミュニティは、「わかっている人が、わかりたがっている人に話をしている構図」 なのだということでした。説明してもムダな人には、時間をかけないのです。だから効率がいい。わかりたい人に、わかっている人が説明する場こそ、つくるべきコミュニティ

ここで語られているような優れたコミュニティになるには、本書にあるようにオフラインでの繋がりが一定重要に思う。

オンラインだったから、と一概に言えるものでもないが... 2021年に終了した某フリマアプリのコミュニティサービスは運営にだいぶ苦慮したようで、サービス終了後も5chのスレなどから当時の様子が伺えた。匿名のオンラインでスタートし、先鋭化・過激化してしまったコミュニティを軌道修正する術はあるのだろうか。

フィードバックのうまい扱い

フィードバックを聞きたくない、という人や会社にある大きなバイアスの一つは、「聞いてしまったらすぐに対応しなければいけない」という思い込み です。しかし、実際は「今すぐできない理由」をきちんとコミュニケーションすればいいのです。

このコミュニケーションが通じるのは信頼関係が前提であり、そこが破綻しているといかに建設的な理由も聞かれないのでは、と思う。1対1では話せばわかることも1対多では通じない、ということもよくある。

顧客との信頼関係構築にあたってまず1つや2つぐらいはフィードバックを受け入れてしまおう、という避けがたい引力がありそうだ。

向いているビジネス

初速が必要なビジネスには、コミュニティマーケティングは向いていません。コミュニティマーケティングの「自分ゴト化」にはそれなりの時間がかかりますし、そこには「真実の声」がないといけないからです。 そして、聞いた人が本当にこれをいいと思わないと、次には伝えていかない。

この点以外にも色々適性はあると思う。

たとえば家電やハードウェアのように物理的な製品の場合はフィードバックを取り入れ改善するサイクルがソフトウェアに比べて長くなりがち。そのような製品だとコミュニティに話題を定期的に持ち込むのが難しくないか、とか。

他には映画やアトラクションのようなエンタメ系のサービスはどうだろう。体験直後は自分ゴト化できていても風化するので生活に根付くわけではない...と書いたがディズニーという圧倒的なレベルでできている例もあった。

日常的に長く使う x ないと困る x 高いアップデート頻度 ...あたりのサービス特性は適性が高そう。

コミュニティ運営全般に言えること、EM Meetup振り返り

僕はEngineering Manager Meetup(以下、EM Meetup)というコミュニティを2018~2020年のあいだ約2年ほど運営していた。connpassのグループ参加者は1,300人超で、野良コミュニティにしてはまあまあ多くの方に興味を持ってもらえたと思う。(過去形なのは、個人での運営を手放してコミュニティに引き継いだため)

EM Meetupは特定企業や製品のマーケティングとしてやっていたわけではないので本書の趣旨とはいくぶん異なるが、このコミュニティ運営において僕が意識したことや、振り返ってみて大事だったと思う点を同書にも見ることができた。とりわけ手探りで実践したことが良しとされているなど、数年越しに"答え合わせ"ができたのは嬉しかった。

初期のメンバーが大事

いいコミュニティは情報を発信していくことが自分自身のプラスになっていく、というメリットに最初から気づいている人たちが中心」とあったが、これはEM Meetupで強く実感したことだ。

初回の開催メンバーにも恵まれたおかげで開催前〜終了直後にTwitterで感想が拡散され、参加できなかった層に勝手にリーチしていき、すぐに第2回を企画しなければという"需要"と"手応え"を感じたことを覚えている。

togetter.com

情報発信がプラスだという風土をつくる

コツが「アウトプットファースト」です。クラウドはいいね、という人たちが集まってきて、そこだけで盛り上がっていても仕方がありません。 (中略) 声が外向きに出ないといけない。 「よかった」というツイートでもいいし、ブログでもいい。それらが外に伝わるように表現してもらう。そうでなければ、肝心の熱量が外向きになりません。

EM Meetupではプレゼン形式でもOSTでも感想・意見をtweetしてもらうようしつこくお願いし続けた。登壇者や参加者同士でオープンなフィードバックを送りあうことでよりコミュニティが活性化し、モチベーションを高く保つことが第一義だと思っていたが、このムーヴがコミュニティのマーケティングにも寄与していたようだ。

また、EM MeetupのSlackワークスペースを作り、ミートアップ以外の場でもアウトプットや交流をできるようにしたことで、その場限りではなくゆるく長くつながる"コミュニティ"になっていった、というのも肝要だったように思う。

運営に巻き込む

コミュニティ経験者は、新しいコミュニティにも進んで運営側にまわる人が多いのです。AWSのコミュニティでも、そういう人が多いですね。  そして、すぐに仲間を集めて負荷分散を図る。ひとりでやるより、複数人でやるほうがコミュニティの開催頻度も上げられ、テーマの幅も広く、深くすることができる。なにより、コミュニティの成長速度が速くなります。

ここは出来ていた面とそうでない面がある。

コミュニティは、リーダーだけを見つけても仕方がなく、 どうやったらフォロワーが集まるようになるか、が重要なのです。  ですから、コミュニティづくりをサポートするとき、極めて大切なのは、フォロワーの候補者を集めるために、コミュニティマネジャーやコミュニティマーケターが手助けをして、リーダーとフォロワーの関係性を最初からつくっていくことです。

EM Meetupでは初期から早々に運営を手伝ってくれる方々が現れ、非常に助かった。エンジニアリングマネジメントに関心のある人が集まっていることもあり、信じられないぐらいサポーティブでフォロワーシップの強い方々と動くことができたので一切の不満がなかった。個人的には慣れないイベント運営をたくさんサポートいただけたことで主催としてしっかりやっていこうというモチベーションにもつながった。

しかしながら、イベントの運営をずっとコミュニティに移譲せずにいたため効率的にイベントを供給できなかったという反省もある。個人の忙しさやモチベーションに依存して開催頻度が変動してしまい、「もっと頻繁にやってほしい」「次はいつですか」という声に応えられないこともあった。

マネジメントの成果はそうそう短期には出ないので、1~2ヶ月の間隔で開催しても自身が進歩や成長を感じられないままであったり、実践の機会がなく、抱える課題意識が変わらないままミートアップを重ねるとループしている気分になる。そういったタイミングでは自分抜きでコミュニティに開催してもらえばよかった。

コミュニティとの向き合い方

最後に、運営側ではなく個人としてのコミュニティとの向き合い方について。以下の内容には100%同意できる。

おすすめするのは、コミュニティに加わったら、 積極的にアウトプット(発信)側にまわること です。常に「ギブ」することを考える。そうすれば、自然にまわりに見つけてもらえるようになり、インプットや引き合いも増えていくからです。  たとえば、コミュニティに100回参加するよりも、1回の登壇が効果を発揮します。自らアウトプットすることが、より良質なインプットを得ることにつながっていく。登壇すれば、すでに自己紹介が終わった状態で懇親会やネットワーキングにも参加できるので、まわりの反応が得やすく、相当有利な状況にある (太字は当記事著者によるもの)

2018年に実践を通じてこのことを学んだ。

ohbarye.hatenablog.jp

いろんなところに顔を出すの面白いと思ってJS ConfやiOSDCなど専門外の領域で登壇したりもしたが、やはり「自分がオーナーシップを持てる」コミュニティや場に参加していくのがコミュニティにとっても自分にとっても最良の結果を得やすいし、持続しやすい(本書でいう「自分ゴト化」)。


本の感想文を書くつもりだったが過去の振り返りになってしまった。

記事冒頭でタイトルの「ビジネスも人生もグロースさせる」に文句を付けたりしたが、実際にコミュニティ活動が僕の人生やキャリアに大きく影響を及ぼしているし、まったく外しているわけでもないな、と思い直した。

ビジネスでのマーケティング実践についてはエアプなので何も言えることはないが、もしこれからコミュニティを形成したい人会社のブランディング・採用活動等に関わる人にとっても何がしか得るものがある本だと思う。