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関心を持てる事柄について

「Coinhive 事件」についての意見書を書きました

高裁で逆転有罪になった「Coinhive 事件」についての意見書を書きました。なお、先に自分の意見は「同件にて被告の無罪を望む」側だということをはじめにことわっておきます。

意見書って何?

コインハイブ事件弁護団主任弁護人の平野先生のコメントを引用します。

このたび、ウェブやセキュリティ関連企業をはじめ、IT業界でご活躍の皆様に、意見書の執筆をお願いいたしたく存じます。意見書は上告趣意書と合わせて最高裁判所に提出します。

目的は「業界内の声を直接届けること」です。高裁判決に示された規範が先例となってしまうとどのような不利益が生じるか、不正指令電磁的記録があいまいに解釈適用されていくことがどれほどソフトウェアの開発を萎縮させるか、現場や経営の立場から、実情をもとにご意見をお寄せいただければと思っています。

詳しくは引用元のページをご覧ください。

www.hacker.or.jp

「業界内の声を直接届ける」役割に微力ながら貢献できればと思います。

締め切りはWebのフォーム提出が2020年4月1日午前0時まで。原本送付はこの2週間後までです。

やり方

手順は池澤あやかさんのNoteの記事を参考にしました。

note.com

だいたい同じですが自分の場合は以下のやり方で進めました。

  1. 意見書の提出フォームからWordファイルをダウンロード
  2. 手元のMacで内容を編集
  3. 印刷して署名。捺印不要とのことで捺印なし。これが原本となる
  4. スキャンしてPDF化。
  5. 意見書の提出フォームにPDFを送付
  6. 原本を封筒に入れ、ハッカー協会指定の住所に送付。切手はコンビニで購入してそのまま貼付けた

意見書の記述から発送までトータルで90分ほどかかりました。

感想

正直言うと意見書募集を見かけてからこれまで、手順がちょっと面倒なので後回しにしていました。あまりふだんしないタイプの作文をしたり原本を送付したり…。

僕と同じように高裁の判決に異議を持っていたり、モロさんを応援したいと思いつつも意見書の作成・提出を億劫だと感じている人も少なくないと思いますが、少しの手間を惜しんだことを最高裁判所で望まない結果が出た後で後悔するよりは遥かにマシだと自分は思いました。

繰り返しますが締め切りはWebのフォーム提出が2020年4月1日午前0時まで、原本送付はこの2週間後までです。思い立ったら後回しにせずに行動されると良さそうです。

参考にした記事/サイト


最後に参考までに自分の意見書の内容を貼っておきます。

法に疎いので頓珍漢なことを書いているかもしれませんが自分の意見として以下を主張しました。

  • 高裁の判決に反対であるということ
  • その理由は判決が刑法の拡大解釈であり、このような解釈がまかり通るとソフトウェア産業のみならず公益を害するような影響も起こり得るという予見

意見書の内容

私は日本国内にて勤務するソフトウェアエンジニアです。業務においてはWebサービスを開発し、趣味でもWebサービスの制作やオープンソースソフトウェアの開発に携わっています。業務・趣味のどちらにおいてもJavaScriptを用いています。

私自身はCoinhiveを使ったことはないのですが、報道で一連の事件を知り、自分の関わる業務および業界の行末と無関係ではないと考え、意見を申し上げます。

弊社の製品のみならず2020年の一般的なWebアプリケーションにおいてはごく一部を除いてJavaScriptが使用されております。警察庁のWebサイト https://www.npa.go.jp/最高裁判所のWebサイト https://www.courts.go.jp/saikosai/index.html においても使用されております。こうした状況においてCoinhive事件が有罪となった時に与える社会的な影響について述べます。

刑法第168条の2の中にて「閲覧者の意図に反する動作をさせるもの」(反意図性が認められるもの)が不正指令電磁的記録にあたると定義されていますが、Webサイトの閲覧者が訪問先のWebサイトにて供されるJavaScriptの動作を意図することは私のようなソフトウェアの専門家でも極めて困難です。

例えば上記サイトの警察庁のWebサイトに私が「台風19号の情報を知りたい」という意図で訪問したとします。するとGoogle AdSense(オンライン コンテンツから収益を得ることができるサイト運営者向けのサービス)に関するJavaScriptファイル( https://cse.google.com/adsense/search/async-ads.js )がWebブラウザに読み込まれ、訪問履歴が第三者に提供されます。これは訪問者の利便性とサイト運営者の収益を両立させるための仕組みではありますが、不正指令電磁的記録の拡大解釈をすれば、私の意図とは反する挙動をするため反意図性があり、また、この同Webサイトにアクセスした私のコンピュータ資源を私に断ることなく利用して収益を得ている可能性があるので反社会性がある、不正指令電磁的記録にあたると指摘をすることができます。高裁による判決はこのようなものであったと私は理解しております。

しかしこのようなことはあってはならないと私は考えます。上述のようにWebサイトにて動作するJavaScriptの大半は閲覧者の利便性とサイト運営者の収益・事業継続などを両立させるための仕組みとして存在しているからです。意図しない動作をしたからといって、コンピュータ資源を断りなく使用して収益を得たからといって、こうした仕組みを廃する方向に舵を切れば現代のWebサイトの大部分はその用を成すことができなくなり、ソフトウェア事業の多くが立ち行かなくなります。選挙や災害等の国民の生活に必要な情報をWebサイト等を通じて届けることもできなければ、COVID-19における感染拡大防止のために自宅で業務を行なったりオンライン学習したりすることもできません。私が従事する産業だけの問題ではなくなると考えております。

最後に私の意見をまとめます。

・刑法第168条の2および3の恣意的な運用、曖昧な基準や拡大解釈による処罰の横行について強く反対する ・犯罪とされる行為の内容、及びそれに対して科される刑罰を予め、明確に規定していない状態でのCoinhive有罪判決は罪刑法定主義に反すると考える ・これらの刑法が制定された本来の目的である悪質なコンピューターウイルスやハッキングの取り締まりに立ち返るためにも、最高裁では適正な判決を望む

以上