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関心を持てる事柄について

無職を経てSmartBank, Inc.に入社しました

掲題の通り、SmartBank, Inc に入社しました。

  • From: Quipper, Inc.
  • To: SmartBank, Inc.

smartbank.co.jp

2021 in review - valid,invalidに書いたとおり転職は2020年の出来事で、入社日は 2020-08-01。2021 の間違いではなく 2020 である。入社してから半年程度はステルスでプロダクト開発を行っていたため書くきっかけを見失ってしまい、以降ずっと執筆をサボっていた。

当記事は入社後 1 年半の振り返りではなく2020年のオファー受諾時や入社時に何を考えていたかを主に記述する。(が、結果として当時の期待やオファー受諾の決め手が概ね間違っていなかったことを追認することになった)

入社までの経緯

無職

前職の最終出社を終えたあと無職をしていた。有給消化だけでなく本当の無職期間を合わせて計 4 ヶ月のバケーションだったので、いわゆる"ファッション無職"ではなく"リアル無職"である。

なお、無職をするにあたり各種の公的手続きがとても面倒だったのでどうせ無職するならもう少し長期間やっても良かったなと思う*1

求職活動

2 ヶ月ほど経過した時点*2で『ソフトウェアエンジニアとして求職活動中です』という記事を書いて求職活動をしたところ、約 100 社からメールをもらい*3、30 社のカジュアル面談を受け、7 社に応募し、6 件のオファーを貰った*4

フルタイムの労働をしながらではとてもやっていけないボリュームの活動である。無職期間であることを活かして数多くの知らない業界/会社/事業/チームの話を聞いて回ることができたし、オファーをくれた各社と納得いくまで向き合えたことには満足した。

また、公開求職のような形式に限らず、転職活動一般について候補企業の管理から面談効率化テンプレートから条件交渉に至るまで、N 記事を書けるほど大小さまざまな知見や tips を得られた。

しかしながら予想した通り公開求職は体力的にも精神的にも非常に疲れることがわかったので二度とやらないのではないかと思う*5

3つの決め手

求職記事に書いた希望のうち最終的に重視することになった 4 大要素は「事業」「人(チーム・文化)」「技術」「企業のフェーズ」であった。方向性がどちらにせよ、いずれもありふれた軸であり特異性は無いと思う。

これらに加えて希望する待遇*6が満たされる会社は複数あったのだが最終的には以下の 3 つが決め手となった。

  • 決済/金融領域におけるエンジニアリングの面白さ(事業 & 技術)
  • 経験したことがなく、今このタイミングから参加するのが最も楽しそう(フェーズ)
  • 2 回目の起業に挑む 3 人のファウンダー(人)

他にもファウンダーと身内がたまたま顔見知りだったり、訪ねたオフィスの近くにがいたりと"縁"を感じることもあったが多分にバイアスがかかっているので割愛する。

決済/金融領域におけるエンジニアリングの面白さ

SmartBank は"カード発行会社 -イシュア-"であり、大枠では Fintech company である。決済や金融にまつわるシステムやプロジェクトを忌避するエンジニアも少なくないが、個人的には非常に面白い分野だと感じている。

テクノロジー情勢/未来予想図

a16z Summit 2019にて、Andreessen Horowitz ファンドの Angela Strange より "Every Company Will Be a Fintech Company" と題されたプレゼンテーションが行われた*7

提示されたのは、それほど遠くない将来、ほぼすべての企業がその収益のかなりの部分を金融サービスから得るだろうという未来予想図だ。この予測を支える大きな根拠が、すでに起きている"金融領域の as a service 化"であり、各社はサードパーティサービスを通じて自社事業に迅速に金融を組み込めるようになるというのが概略だ。

もともと Fintech に強い関心があったわけではないのだけれど、AWS が起こしたようなイノベーションが起こる次の領域は Fintech であるというこの青写真に説得力を感じ、事業会社で働くプログラマのキャリアとして早晩避けられない領域であれば今から臨んでしまうのが良いだろうと考えた。

現に、金融/決済事業でなくとも事業会社で収益を上げるサービスやプロダクトや機能を作るにはお金に関わるコードを書かなければいけないし、決済ゲートウェイとの接続部分を設計・実装したり、課金対象に関する集計スクリプトを書いたりもする。そして課金や決済領域を任されるエンジニアには確かなスキルがあるとは常々感じていたし、自分もそうありたい。

個別テクノロジー

上述した業界情勢よりは狭小な話題ではあるが、Fintech 発のソフトウェアの発明にも注目している。誰もが聞くようなものでいえばDeFiブロックチェーン、暗号通貨等々が挙げられるだろうが、もっと小さいスコープで、Webアプリケーション開発者として身近な発明も生まれている。

例えば、僕が Kaigi on Rails で発表*8した Idempotency-Key Header*9IETF draft は PayPal のメンバーから提出されているし、Ruby の静的型チェッカーの Sorbet は Stripe によるプロジェクトだ。最近知ったものだと RBI (静的型検査に用いる Ruby Interface) を生成するtapiokaという OSS も Shopify 発だ。

このように、堅牢なソフトウェアの設計・実装を次のステージに進めるプラクティスがこれからも出てくることを期待している。

その他にも eKYC*10/不正対策、異常検知/モニタリング*11、高いセキュリティ要件を満たすインフラ*12等々、総合的なエンジニアリングスキルが求められる。学ぶべき知識も得るべきスキルも広域に渡るが、それだけやりがいもある。

経験したことがなく、今このタイミングから参加するのが最も楽しそう

先述したような事業特性を持つ会社は多くある。しかし、これまでの自分のキャリアを振り返ってみて、既存の土台の上で成果を出すのではなく土台を作る部分での意思決定と実践をやってみたいという考えがあったので、結果として 0→1 の立ち上げ期の会社を選ぶことにした。

ある程度成熟した企業で新規事業や基盤刷新のようなプロジェクトに取り組むことも同様のやりがいがあるように思えたが、イチから作る土台をシステムに限定せず、チームや組織にも広げたいという思いがあった。

「(プログラマーにとって非常に重要な)判断力をつける一番の方法は、自分で設計したシステムを長い間メンテすること」という至言があるが、これはシステムに限らず言えることだ。0→1 のフェーズで行った意思決定、作った文化や制度がそれ以降のフェーズにおいてどのように機能/変容/残存/消失するか。この変遷や過程を経験しなければ得られない知見やスキルがあると考えている。

会社のフェーズは水物であり数年で易易と変わってしまうし、スタートアップであれば数ヶ月で一変することもある。そしてその変化は多くの場合は不可逆であるため、そこで得られたはずのものは二度とは得られない。だからこそ社員数が一桁(当時)の SmartBank に対して「いまこのタイミングから参加するのが最も面白そうだ」と直観した。

2回目の起業に挑む3人のファウンダー

最後だが、最も特徴的であり SmartBank の唯一性でもあるのが、2 回目の起業3 人のファウンダーという点だ。

2回目の起業

前提として、自分は経営者の手腕やビジネスモデルの良し悪しを見抜くスキルを持たない。日本国内だけでも数千と存在するスタートアップ、海の物とも山の物ともつかぬ中からどうやって"成功しそう"なスタートアップを選ぶか?

指針としたのがシリアルアントレプレナー(連続起業家)という属性である。スタートアップ市場の原理や戦い方を知ったうえで起業する、いわばつよくてニューゲーム*13を実践しているファウンダーが"勝ち馬"に近いのではないだろうかと考えた*14

もちろん事業の成功確度だけではない。リファクタリングやシステム刷新に取り組んだことのあるエンジニアには馴染み深いことだと思うが、類似する問題に何度も取り組むことで得られる洞察の深さというのは得難いものだ。2 周目に挑む彼らと間近で働いてこそ得られる体験があると思う。

余談だが、生涯で数百の事業に携わった渋沢栄一の功績を僕がリスペクトしていることも、シリアルアントレプレナーという属性に惹かれたのと無関係ではないかもしれない。

3人のファウンダー

さらに特徴的なのが、日本初のフリマアプリ「フリル」(現ラクマ)を作った @shota, @yutadayo, @takejune 3 人のチームによる創業という点。 彼らが創業した Fablic には多くの優秀なエンジニアが在籍していたので当時から見知っていたし、何よりビジネス・テクノロジー・デザインに特化した 3 人が初めからトップにいるチーム・組織がどのようなプロダクト開発を行うのか興味を持っていた。

僕は、彼らのようなファウンダー 3 人が揃うことによって "The Product Management Triangle" の調和が陰に陽に促進されるのではないかと期待している。「3 つの頂点が示す領域を健全なバランスで機能させることはプロダクトマネジャーの職責である」というのが原典の主張であるが、調和を取るのがただ 1 人に一任されるよりも 3 つに分離されているほうがより健全ではないだろうか*15三権分立と捉えてもいい。

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https://productlogic.org/2014/06/22/the-product-management-triangle/ より

巷では「うちの組織では(任意の領域)X が(任意の領域)Y より弱い」とか「(任意の領域)Z が軽視される」といった悩みを聞くこともあるが、各領域の専門性を持つ人材を経営層に置いてパワーバランスを調整するというのはこの問題に対する解法の 1 つとして知られている。


もちろん上記の観点だけではなく、信頼できる知人がファウンダーたちを信頼していることも重要視した。

オファーを受諾する前に、過去に彼らと一緒に働いていた知人数名にリファレンスチェックを取ってみたところすべからく高評価であり、「もう一度一緒に働きたい」という声も軒並みあった。個々の能力だけではなく素直さや誠実さといったソフトスキルも含めて従業員から信頼されていたことがわかったし、オファー面談はそれを裏付けるように情熱的なものでとても良かった。

もし会社やファウンダーに興味を持ってもらったらファウンダー陣の書いた記事もぜひ読んでみてほしい*16。2 回目の起業にかける熱意がすごく、彼らが人に火をつけられる人たちであることが伝わるかもしれない。

note.com

yuta.hatenablog.com

takejune.com

後日談、やっていること

大抵の転職エントリは後日談が気になるものだし、せっかく 1 年半ほど勤続しているので当記事に「1 年半近く働いてみてどうか」の振り返りも付記しようかと思ったが、長大になるので本記事では数行の言及に留める。

ざっくり言えば入社して取り組んでいることは概ね B/43 の開発である。

b43.jp

B/43 は日常の決済を行うカードと家計簿が連動した家計管理アプリであり、僕自身がいちユーザーとして改良・改善の恩恵を日々受けている。とりわけ、ペア口座機能が夫婦の家計管理と支出の改善に凄まじく寄与している。僕個人のニーズに依るところも大きいが、これは既存の家計簿サービスでは成し得なかったことだ。

折角なので家計管理サービス(B/43)と資産管理サービス(マネーフォワード)の併用や、我が家の"金のアーキテクチャ"についても別記事で書いてみたい。

最後に

入社から時間が経ってしまったが、入社時のメモや意思決定のログを読み返すことで初心を思い出す良い機会にもなったし、何より入社時の期待や決め手が裏切られていないことが改めてわかって良かった。

B/43 は世に出たばかりだが、早々に月間決済総額は数億円規模、累積ダウンロード数は 10 万**を突破しており、さらなる成長を見据えて採用を強化している。

well-worn words ではあるが、もし興味を持ったらカジュアル面談に応募してもらえるととても嬉しい。会社のカジュアル面談に凸するのに気後れしそうなら(その気持ちもとてもよくわかる)、僕の連絡先に 1, 2 行のメールを送っていただくのでも構わない*17

smartbank.co.jp

*1:無職に飽きる / 不安になるという方もいるようだが、(可能なら) 1 年程度は無職でもよいと感じる程度には無職適正があったようだ

*2:失業給付金を受給するための活動が必要になったタイミングでもある

*3:ちなみに SmartBank からは、記事を公開した即日に CTO の @yutadayo からメールが来たのを覚えている。2018 年頃に Quipper と Fablic での合同イベントをやった際にニアミスレベルの顔合わせをしていたので反応することができた。何が縁になるかわからないものだ

*4:マネジャーとしてのスカウトも多かったのだけど、「エンジニアリングスキルがボトルネックでマネジメントの実行力が頭打ちになるのではないか」という課題意識の克服を企図していたので一切をお断りした

*5:知人の誘いを断るシーンが特に堪えた

*6:インターネットに給与金額を書いても何一つメリットがないことが知られている

*7:Marc Andreesen の"Why Software Is Eating The World"みたいでワクワクするパンチライン

*8:Idempotency-Key Header を使ったリトライと、オンラインイベントの"Kaigi 感"』参照

*9:Idempotency-Key Header の現状・仕様・実装の理解を助けるリソースまとめ』参照

*10:オンラインで行う本人確認のこと。『B/43 の eKYC システムの裏側』参照

*11:Kaigi on Rails 2021 で決済サービスの監視についてトークしてきました!』参照

*12:FinTech スタートアップ企業のインフラができるまで(選定編)』『FinTech スタートアップ企業のインフラができるまで(構築編)』参照

*13:@takejune の DesignShip でのプレゼンの表現より https://takejune.com/posts/designship-2021

*14:つよくてニューゲームとは言うものの、無論、マーケットもビジネスモデルも違うし完全に同じゲームではないし100%の再現性があるはずもない。だからこそ挑戦しがいがあるのだろう

*15:3 領域を調和させられる人材が希少すぎるという現実的な問題もある

*16:関係ないけどみんなブログプラットフォームがバラバラ

*17:Twitter @ohbarye でも OK だが、最近見ていないので反応する自信があまり無い