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関心を持てる事柄について

『日本語という外国語』読んだ

日本語という外国語 (講談社現代新書)

日本語という外国語 (講談社現代新書)

あらすじ

日本人が考える「日本語」と外から見た「ニホンゴ」は違います。「どこが難しい?」「意外な魅力とは?」「どう教えるか?」豊富な日本語教育経験から語る、日本人のための日本語再入門。(講談社現代新書

日本人が義務教育〜高等教育で学ぶ「国語教育」ではなく、日本語を母語としない人向けの「日本語教育」にフォーカスした本。

面白かった点

日本語は日本人が思うほど難しくない

「第4章 外国語として日本語を眺めてみると」より。

昨日、私は八時におきました。九時に、朝ごはんを食べました。朝ごはんは、トーストとサラダでした。おいしかったです。十時に電車で銀座へ来ました。デパートで黒いコートとストライプのネクタイを買いました。

外国人がこのように話すのを見た日本人はたいてい「日本語上手ですね」と感心する。しかし、著者によれば「一日に三時間、月曜から金曜まで学べば、早ければ一ヵ月、どんなに遅くても二ヵ月で、このレベルまで達する」という。

国語教育を思い出し、五段活用やらサ変やらカ変やらを思い浮かべる日本人にとっては「そんなはずない」と言いたくなるかもしれないが、「です・ます」にフォーカスして学ぶ限りでは日本語の動詞は非常に簡単なのだと。

日本語表現のゆたかさ

上記のような簡易さがある一方で、話を最後まで聞かないとわからないような複雑な表現も多々ある。

とりわけ、「第5章 日本語表現のゆたかさを考える」で挙げられていた例文、「山田選手はかなり練習させられていたらしいよ」の一文の述語の説明は白眉だった。

「させられていたらしい」という述語だけで以下の4つの情報を表現している。

  1. 過去のことである(〜た)
  2. 本人の意思とは反していた(〜せる)
  3. 一過性のことではなく継続していた(〜ていた)
  4. 話し手にとってこの件に確証はない(〜らしい)

テンス・アスペクト・ムード

聞きなれない文法用語があった。テンス(時制)はまだしも他の2つは何だろう。

アスペクト

アスペクトは「ある動作がどの局面にあるか」を表現する文法形式。「相」ともいう。「食べ始めた」という言葉は以下のように分解できる。

アスペクトを変えることで「食べいた(進行)」や「食べ終えた(完了)」などの表現が可能になる。

ムード

ムードは「単なる事柄を表す以外の話し手の気持ちのありよう」について述べる文法形式。言語学では「法」と呼ぶ。

これを用いることで「働くつもりだ」「食べるらしい」といった表現が可能になる。

ここまでの知識を総動員すると、「させられていたらしい」は結局以下のように解析可能となる。

  • 「させ」: 使役
  • 「られ」: 受け身
  • 「てい」: 進行(アスペクト
  • 「た」: 過去(テンス)
  • 「らしい」: 推測(ムード)
  • 「よ」: 判断(ムード)

感想

日本語教育に関する内容が中心の本だが、これに携わらない人や興味のない人であっても、普段意識することのない母語言語学面での分析からは上述のような面白い知見を見つけることが出来ると思う。

とりわけ、日本語を話したり学んだりしている外国人と普段から接している人にとっては彼ら彼女らがどのように日本語を捉えているのか、どのような点に躓きがあるのかを理解する一助となるので、一層お薦めできそうだ。