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関心を持てる事柄について

誰がジュニアを育てるのか -出題編-

過熱する採用市場の盛り上がりにあわせて感じたことについて言語化を試みているが未だ納得解が得られずにいる。書きかけの Scrapbox は随時更新していくとして、現時点での dump をとっておく。

誰がジュニアを育てるのか - ohbarye

主にソフトウェアエンジニア採用の文脈で「誰がジュニアを育てるのか」ということについて。

f:id:ohbarye:20180929013900p:plain *1

「優秀な人間だけを採る」という採用戦略

著名テック企業が自社の採用戦略について語った本が出版されるたびに話題になる中で「優秀な人間だけを採る」というのが採用戦略として認知されるようになってきたのを感じる。Netflixの最強人事戦略Work Rules!あたりが代表的…かどうかは知らないがあくまで自分が読んだ中の代表。世には同じことを謳う書籍や記事がもっとたくさんあるかもしれない。

※「優秀」という言葉を定義するのは難しく、そしてまた常に相対的なものだが、わかりやすくするために「在職者と並べた時に上位50%に入るスキルを持つ人」はその企業にとって「優秀な人」としておく。

この採用戦略はいち企業としての成功を追い求めるうえで圧倒的に正しい*2。人材育成に投資する余裕のないスタートアップであれば尚更そうせざるを得ないというのは誰でも合点がいくところだと思う。

局所的な正しさ

正しい、とはいえ採用市場にて大多数の企業がこの戦略を選択すると、この定義において優秀でない人間を雇用する企業が減る。言い換えれば就職先がなくなる。この定義において優秀でない人間とは、新卒や第二新卒、またはキャリアチェンジして業界に参入するキャリアが浅いエンジニアなどだ。長いので"ジュニア"と呼称することにする*3

優秀であればキャリアに関係なく採用される、というのはわかる。だが「在職者と並べた時に上位50%に入るスキルを持つ」のはごく一握りで9割8分ぐらい*4のジュニアはあてはまらない。

彼/彼女らの就職先がなくならないにしても「優秀な人間だけを採る」戦略をとり、その恩恵を享受するような企業や環境では働けない。そこで起きるのは、優秀な同僚と一緒であれば成長したであろう人の芽が出ずに終わってしまうという問題*5や、優秀な同僚と働きたいのであれば相対的に劣るかもしれない環境の中で自ら成長して優秀にならなければいけないという問題だ。

スタートラインからビハインドしている者がこうした努力と転職を繰り返すことで初めて求めていた職場にたどり着くことはもちろん不可能ではない…不可能ではないが、厳しい。

誰がジュニアを育てるのか?

前置きが長かったものの、誰がジュニアを育てるのか?それが問題だ。

ジュニアの受け皿になる企業は教育コストを支払うだけ支払って彼/彼女が成長した折に"卒業"されてしまうのか。

教育コストを払いたくない企業が生む"ババ抜き"になってしまわないか。

さらに長期的に見ると、優秀だったエンジニアたちが定年を迎える頃には後輩が誰も育っていない、なんてことにはならないか。中途で問題に気づいて新たな解決策が出てくるか。

まだまだ勉強不足なので自分の観測範囲では納得解が得られていない。もしかすると歴史ある他業界や他職種では既に起こったことなのかもしれない。

引き続き考え続けていく。


「優秀な人間だけを採る」に乗らない

別の観点で、「優秀な人間だけを採る」戦略に乗らないことで得られるメリットも存在するという話。

ジュニアを採用することで一時的に平均的なレベルが低下するがそれを許容してでも得られるものはあるのかもしれない。それまで荒野だったオンボーディングが整備されたり、チームで技術力を向上させる仕組みを作る方向に向かったり、Engineering Manager や Tech Lead を志向する社員にメンターの機会を与えたり。

これらのことはジュニアを採らずともできるものではあるが、より強く必要性を認識させる手っ取り早い手段にはなりそう。


引用

以下、記憶にあって探せたものからの引用

Netflixの人事制度

経営陣が従業員のためにできる最善のことは、一緒に働く同僚にハイパフォーマーだけを採用することだと学んだ。これはテーブルサッカーの台を設置したり、無料で寿司を提供したり、莫大な契約ボーナスやストックオプションを与えたりするよりずっと優れた従業員特典だ。

Work Rules!

採用の質で妥協することは、間違いにほかならない。間違った採用は有毒だ。本人のパフォーマンスが損なわれるだけでなく、周囲のパフォーマンスとモラルと活力を堕落させる。


自分より優秀な人だけを採用する


10 人の新規採用者のうち 9 人が自分より優秀なら、採用はうまくいっている。


たとえば大学生を評価するなら、GPAの点数は考慮すべきかなり重要な要素だと思えるかもしれない。だが、日本からの応募者に関してはそうでもない。日本では大学への入学は主として全国的なテストの結果で決まる。そのため、高校生はそのテストで好成績をあげることに注力し、数年にわたって毎週 15 から 20 時間も塾に通うことが多い。しかし、いったん一流大学に入ってしまうと、成績をまったく気にしない。歴史的に、日本の大学生は塾での鬱々とした時間と「サラリーマン」(過去の日本に特有の年功序列と終身雇用を土台とするキャリアを示す用語)生活の単調さとの狭間で、遊びと自由という最後のあがきにふける。日本の大学の成績は採用データとしては実質的に意味がないが、どこの大学に通っていたかを知ることは、少なくとも新卒者の採用については役に立つ。

クックパッド

日雇い労働者だった赤髪エンジニアがクックパッド技術部長になるまでのストーリーより

その人が入ると、クックパッドのエンジニアの技術力の平均が上がるということを求めてます。


すごくわかりやすく技術力を数字で表わすと……いや、そんな単純じゃないのはわかっていますが、説明のために数字で表わすと、いまのエンジニアの平均値が5だとしますよね。

そこに「いまどうしても人が足りなくて・・・」と、4.5の人を入れる。すると平均は4.83。5と5と4.5。そこにもう一人5を入れても4.87。5に戻らないので、レベルが下がります。

*1:いらすとやより https://www.irasutoya.com/2015/03/blog-post_53.html

*2:なぜ正しいかは上述の本を読むと書いてある

*3:著名テック企業にもジュニアという肩書があるのは知っているがそれは業界全体で見たら優秀層なので例外的とする

*4:要出典

*5:その才覚を見抜くのも採用テクかもしれないが、在職者と並べた時に上位50%に入るスキルを持っていないから入れない、としておく