一般的に情報サービス産業の景気は、顧客となる他業界の景気よりも1年程度遅れるといわれています。前年の損益が次の年の投資計画を決める、考えてみれば当然の話です。
Figure 1. 景気とIT投資 参考:「日本統計年鑑」総務省、「社会実情データ図録」、「IT投資動向調査」ITR |
Figure1.は全産業の営業利益を左軸に、実質GDP成長率とIT投資指数を右軸にとり、各データの推移を表しています。IT投資指数とは、ITRが発表している「IT予算の増減傾向を指数化したもの」です。
(本当はもっと長いスパンで見たかったのですが2001から2010のデータしか得られませんでした)
GDPと営業利益の違い
まず選択したデータの理由について。景気を表す代表的な指標といえばGDPですが、ここで考えたいのは企業のIT投資なので本業の儲けを表す全産業の営業利益も引っ張ってきました(1)。
ところで、僕は以前GDPと利益の違いをよくわかっていなかったために恥をかいたことがあります。付加価値という概念を誤解していました。戒める意味でも一度整理しておきます。
利益といっても会計用語では段階があり、付加価値に最も近い(2)のは粗利ではないでしょうか。
例えばラーメン屋が100円で仕入れた面や具材を加工し、600円の価値あるものにします。この場合、500円の付加価値を生み出したことになりますが、この算出方法は粗利とまったく同じです。しかしラーメンをつくるための人件費や機材の減価償却費等がここからさらに引かれますから、純利益は基本的にはさらに小さくなります。この考え方を無視すると、付加価値=利益という曖昧で乱暴な等式を採用しかねません。それだけは避けましょう。
IT投資
話が逸れましたが、情報サービス産業の景気は他産業の景気から一年遅れになるかという話です。Figure1.で最もわかりやすいのは、見事に一年のずれでリーマンショックの影響を受けている点でしょう。営業利益とGDP成長率がともに落ち込む2008年のIT投資は、前年に比してわずかに劣る程度で、翌2009年が急激な落ち込みです。
Figure 2. Figure 1.におけるIT投資を一年前倒しにしたもの 参考:「日本統計年鑑」総務省、「社会実情データ図録」、「IT投資動向調査」ITR |
ただ気になるのが、
いったい何が起きていたのか。
この現象を引き起こした一番の要因は、ITバブルとその崩壊による影響です(3)。
1990年代末期に、消費者との直接の双方向的通信を大量に処理できるe-コマースの可能性が現実化し、既存のビジネス・モデルを揺るがせた。このため多くの会社がインターネット関連投資に走り、これらのサービスを提供するIT関連企業に注目が集まった。さらに1998年から1999年にかけて持続した米国の低金利がベンチャー創業資金や投資資金の調達を容易にした。
このような株価の崩壊のなかで、多くのIT関連ベンチャーは倒産に追い込まれ、2002年の米国IT関連失業者数は56万人に達した。グーグル、アマゾン・ドットコムやe-ベイなど一部のベンチャーのみが生き残った。崩壊後の不況の最中、2001年9月11日に同時多発テロが発生し、アメリカは深刻な不況へ突入した。 (Wikipediaより)本来の景気から考えれば不自然なほど、企業はITに投資をしていた。また、バブル崩壊後は景気の上昇にも関わらず投資への慎重な姿勢が続いた。
こうした時代背景がグラフを眺めているだけではわからなかった上記2点を説明してくれます。
以上、データ分析の練習を兼ねた景気とIT投資の関係についてでした。今後の予測については2011~2012のデータが必要だと思われるので今回は省略します。
(1) しかし営業利益よりはGDP成長率の方がIT投資指数との相関が高く見える。
(2) 完全にイコールではない。
(3) バブルをくぐり抜け生き残ったAmazonのCEOジェフ・ベゾスが、TEDの講演(Jeff Bezos on the next web innovation)で".com bubble"について語っています。