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関心を持てる事柄について

『逆説のスタートアップ思考』読んだ

同僚の @kechol 氏に勧められた『逆説のスタートアップ思考』(中公新書ラクレ)を読んだ。

概要

Amazon の内容紹介欄より。

爆発的成長を遂げる組織、スタートアップ。起業を志す人、新事業立ち上げに携わる人が増えた昨今、そこで培われた方法論は高い価値を持ち始めた。一方Microsoftで多くのスタートアップを支援し、現在、東大産学協創推進本部で講義や起業サポートを行う馬田氏曰く「日本が健全な社会を維持するためにスタートアップが不可欠」と主張する。なぜスタートアップが必要なのか? 逆説的で反直観的な思考法が爆発的成長をもたらすのか? そして東大生がスタートアップを学んでいる理由とは? 孫泰藏氏、推薦!

感想

上記の概要だけだとあまり面白そうではない。

数々の事例とともに見るスタートアップを成功させる方法論・考え方、それらが第一に「逆説的で反直感的、しかし本質的であること」、第二に「スタートアップの経営論でなく個人のキャリアやワークスタイルに転用できること」がこの本の面白いところだと個人的には思った。

また、事例紹介時にスタートアップやベンチャーキャピタルの著名人の言葉だけでなく哲学や行動経済学の知見なども引用されているところにたびたび説得力を感じてしまう。

スタートアップに限らず、サービスやプロダクトの開発を行っている人、事業開発に関わっている人なら面白さが伝わると思う。

毎章の終わりにきちんと添えられている「この章のまとめ」欄を眺めるだけでも刺さる(まとめは全てハイライトしてしまった)。

特によかったところ

引用ばかりで恐縮だが、本当に刺さる話が多い。

競争に対する考え方

競争すること自体がイデオロギーである、ということに気付くのが、ピーター。ティールにとって、ほとんどの人が信じていない大切な真実でした。彼はスタートアップやその他の一部の領域において、『負け犬とは競争に負けた人のことではなく、競争している人こそ負け犬だ』と指摘します。

!?

模倣をして模倣元に勝とうとすることは、戦略上、最も犯しやすい間違いの一つ、「最高を目指す競争」に陥ってしまいかねません。

わかる。

自社の戦略を作る上で最も犯しやすい間違いは、「最高を目指す競争をしてしまうこと」だとマイケル・ポーターは指摘しています。他社と同じ価値を、同じやり方で行ってしまえば、その中で最高を目指さざるを得ず、結果的に価格競争や過当競争に陥ります。

わかる…!自分たちが提供・実現しようとしている価値がブレていると易きについてしまい、成功者と同じものを同じやり方でやろうとする。

面白いのは「同じ価値を異なるやり方で」実現するとそれは競争から一歩抜け出せるということ。既存事業をハックして頭一つ抜けた企業の例も幾つか挙げられていた。

スケールしないことをする

ほとんどすべてのスタートアップは、そうした素早い検証を行うためにも、「スケールしないこと」から始めるべきだと言われています。 (中略) Stripeという開発者向け決済サービスを手がけるスタートアップは「β版を試してもいい」と言ったユーザーに対して「ありがとう」だけで終わらず、「パソコンを貸してください」と言い、その場でStripe用のコードを実装して、手渡していたそうです。彼らはそうしたスケールと程遠い丁寧なサポートから始めることで、「どこでユーザーがつまずくか」を理解しながら、熱狂的な顧客を獲得していきました。

すごい。

スタートアップにとってのカスタマーサポートとは、製品以外の体験を提供できる重要な活動です。つまり、より広い意味でのプロダクト体験をよくするための重要な一要素です。

まさに最近エンジニアとしてカスタマーサポート(をサポートする)業務をやっているので非常にわかる。カスタマーの不満や迷いと接することでプロダクトの改善点が浮き彫りになる。

満足度は最高でないと意味がないという点です。  2000年代前半にゼロックスが行った顧客対応についての調査によれば、「満足した」と答えた顧客のうち、実は75%もの顧客が離反していったそうです。一方で「とても満足した」と最高評価を付けた顧客では、その契約継続率は「満足した」と答えた顧客の6倍にまでなりました。

よくある「95%が満足と回答!」みたいな売り文句も内訳を見ると「やや満足」みたいなのが大半だったりする。

運を上げる

運はコントロールできないものですが、挑戦する「回数」は私たちの意思によってコントロールできます。

バッハは1,000曲以上、ピカソが10万点以上の作品を作った話が来るか〜と思ったら来た。とにかく打席に立つ。

挑戦をしなければ何かを手に入れることはできません。しかしそうした状況を知ってもなお挑戦をしない人が多いのはなぜでしょうか。  その一つの理由として、ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者、ダニエル・カーネマンらが指摘した「損失回避性」が挙げられそうです。この性向を簡単に言えば、人は誰しも損をすることを怖がり、得を取るよりも損をすることに敏感、ということになります。

わ、わかる。

同じサイズの利得と損失を比べたところ、利得に対し、損失に伴う感情的なインパクトは1・5倍から2・5倍程度あることが分かっています。特に最初の損失についての感じ方ほど激しく、次第に緩やかになる傾向があるようです。

損失に慣れることで強くなるというのを個人で理解するのも大事だが、組織や文化レベルでも尊重すべき考えと思う。失敗を許容しない組織や文化、社会だと挑戦の回数がそもそも少なくなってしまうので、ヒットを打つ可能性も低くなる。

とはいえ、当然ながら常に挑戦に100%注げばよいわけではなく、著者は Google の20%ルールのようなバーベル戦略*1の併用も推奨している。

ハイライト

以下はハイライトした箇所。


一見、不合理なアイデアの選択のことをピーター・ティールは「賛成する人がほとんどいない大切な真実」と呼んでいます。「狂気は個人にあっては稀有なことである。しかし、集団、党派、民族、時代にあっては通例である」というのは哲学者ニーチェの言葉ですが、まさに今の時代の集団が「間違って信じている幻想」を見抜き、それに異を唱えることが、スタートアップを始める人たちには必要な資質とも言えます。

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そのため、アイデアそのものの良し悪しではなく、「なぜ今」このアイデアは悪いように見えて実はよいのかを説明できる必要があります。この「Why Now?」の問いは、シリコンバレーで最も尊敬されるベンチャーキャピタルの一つ、セコイア・キャピタルがしばしば行う質問だとされています。

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そして「難しい課題に取り組むとスタートアップは簡単になる」と同類の反直観的なものとして、「面倒な仕事に取り組むとスタートアップは簡単になる」という事実が挙げられます。  なぜなら、大きな課題があるものの、明らかに面倒な領域ほど取り組もうとする人は少なく、結果的に競合が少ない領域でスタートアップが可能になるからです。

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「Y Combinatorで行うたくさんのことのうちの一つは、面倒な仕事は避けられないというのを教えることだ。そう、コードを書くだけでスタートアップを始めることはできないんだ。(中略)面倒な仕事は避けられないだけじゃない。面倒な仕事こそがビジネスの多くの部分を構成しているんだ。企業は、その企業が引き受ける面倒な仕事によって定義される」

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「本当に成功している企業というのは、既存のカテゴリーにはまらない、事業内容を説明しにくい企業なのです」

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ポール・グレアムは起業家の重要な資質として「Relentlessly Resourceful(粘り強く、臨機応変であること)」を挙げています。スタートアップでは必ず悪いことが起こります。しかもスタートアップを経営していると、ジェットコースターのように目まぐるしく状況が変わります。そんな状況に対して柔軟かつ臨機応変に対応しながら、基盤となる信念をぶらさずに解決策を探し続けるような資質が起業家には必要とされます。

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この章のまとめ ・スタートアップは不合理なアイデアのほうが合理的です。悪いように見えて実はよいアイデアを探す必要があります。ただし悪いように見えるアイデア、そのほとんどが単に悪いアイデアであることには注意してください。 ・難しい課題や面倒な課題のほうがまわりから支援が受けられたり、競合がいなかったりするので、結果的には簡単になります。だからこそ社会的にインパクトの大きい課題を選ぶことをお勧めします。 ・本章で解説した内容は、あくまで短期間での急成長を狙うためのアイデアについてのものであり、すべての事業に当てはまるわけではありません。

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独占企業は長期的なイノベーションに投資できるため、そこからも新たなイノベーションや優れた人材が生まれやすくなります。

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独占的にお金をもらうには、顧客にとって代えがたい、つまり「独自の価値」を生み出す必要があります。  とはいっても、単に独自の価値さえ作れればよいわけではありません。多くの人がここを勘違いしがちです。「独自の価値」を「独自のやり方」で作る、という二つの条件を同時に満たすことが重要です。

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TransferWiseはこのようにして、圧倒的に安い国際送金手数料という価値をマッチングという手法、そして高度なアルゴリズムという「独自のやり方」で優位性を生み出しています。

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模倣をして模倣元に勝とうとすることは、戦略上、最も犯しやすい間違いの一つ、「最高を目指す競争」に陥ってしまいかねません。

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自社の戦略を作る上で最も犯しやすい間違いは、「最高を目指す競争をしてしまうこと」だとマイケル・ポーターは指摘しています。他社と同じ価値を、同じやり方で行ってしまえば、その中で最高を目指さざるを得ず、結果的に価格競争や過当競争に陥ります。

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最高を目指す競争では、次第に価格競争か長時間労働に陥り、利益がどんどん目減りしていきます。その模倣の行き着く先こそ、過重労働のブラック企業です。安い労働力を目一杯投入すれば競争に勝てる、これが自分たちの戦略だ、と勘違いしてしまった経営者が引き起こす悲劇です。

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この章のまとめ ・スタートアップはまず「独占」を狙います。 ・独占のためには「小さな市場」から始めて「素早く」独占し、その状態を「長く」維持する仕組みを作る必要があります。 ・競争に負けることが負けなのではなく、「競争すること自体」が負けです。だからこそ競争から抜け出ることを意識する必要があります。 ・戦略とは「やらないこと」を決めることです。決して「最高を目指す競争」をしてはなりません。 ・競争から抜け出るためには「独自の価値」を作る必要があります。さらにそれを維持するには、独自の価値を他社とは異なる「独自のやり方」でどうやって作るかを考える必要もあります。 ・戦略とは往々にして実践から生まれます。すべてを計画的に行えるわけではありません。戦略を早く作るためにも、一刻も早く製品を市場に出しましょう。

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スタートアップにとってもっとも重要なことは、「人の欲しがるものを作る(Make Something People Want)」ことです。このMake Something People Wantという言葉は、長い間Y Combinatorの標語になっています。

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プロダクト体験を設計する際には、顧客の声はきちんと聞きつつも、彼らの期待通りのものを作るのではなく、その声の裏に潜む、本当の欲求が何なのかを捉える必要があります。

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営業してから製品を作り始める、という手法もあります。  当初、Microsoftビル・ゲイツも、ハードメーカーに営業をかけ、顧客にニーズがあることを確認してからプログラムを作っています。  そんなことができるのは、彼自身が実際に素早くプログラミングできるエンジニアだったからです。「まだできてもいないものを売る」という手法は誰にでもお勧めできる方法ではありません。ただ、確かにこれが成功すれば、「誰も買ってくれないものを作ってしまう」という時間の無駄を避けることができます。

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ほとんどすべてのスタートアップは、そうした素早い検証を行うためにも、「スケールしないこと」から始めるべきだと言われています。  スタートアップは急成長を目指しているはずなのに「スケールしないこと」を推奨することは反直観的に映るかもしれません。しかし、スタートアップから始めて大きくなった企業が、その初期には「スケールしないこと」を実践して、それが後の急成長の支えになったことを告白しています。

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Stripeという開発者向け決済サービスを手がけるスタートアップは「β版を試してもいい」と言ったユーザーに対して「ありがとう」だけで終わらず、「パソコンを貸してください」と言い、その場でStripe用のコードを実装して、手渡していたそうです。彼らはそうしたスケールと程遠い丁寧なサポートから始めることで、「どこでユーザーがつまずくか」を理解しながら、熱狂的な顧客を獲得していきました。

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スケールしないこと、そして顧客に製品を使い続けてもらうために重要な役割を果たすのがカスタマーサポートです。

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スタートアップにとってのカスタマーサポートとは、製品以外の体験を提供できる重要な活動です。つまり、より広い意味でのプロダクト体験をよくするための重要な一要素です。

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満足度は最高でないと意味がないという点です。  2000年代前半にゼロックスが行った顧客対応についての調査によれば、「満足した」と答えた顧客のうち、実は75%もの顧客が離反していったそうです。一方で「とても満足した」と最高評価を付けた顧客では、その契約継続率は「満足した」と答えた顧客の6倍にまでなりました。

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この章のまとめ ・まず何よりも人が「欲しがるもの」を作ることが重要です。 ・製品「以外」もプロダクト体験として認識することで、打てる手は大きく広がります。 ・プロダクト体験は「仮説の集合」です。まず最も大きなリスクを抱える仮説から検証を始めてください。 ・スタートアップにとって大きなリスクとは、顧客にとって「ニーズがあるか」である場合がほとんどです。その確認のためにもシンプルなものをとにかく「ローンチ」して、顧客の反応を見ながら改善しましょう。 ・多数に好かれる製品よりも、「少人数から愛される」製品を作ってください。そのためには「スケールしないこと」をすることが重要です。そして「継続率」を追い続けてください。 ・「サポート」と「セールス」は製品開発の一種と捉えるべきです。面倒な仕事を避けず、これらのスケールしないことを創業者自らが行ってください。

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悪い未知に備えるのはリスク管理の基本ですが、よい未知に賭けるのがイノベーションと言えるかもしれません。より正確に言えば、「予測可能なコストの範囲内で、よいほうの未知が起こることに賭けること」がイノベーションの起こし方である、と言えます。

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運はコントロールできないものですが、挑戦する「回数」は私たちの意思によってコントロールできます。

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挑戦をしなければ何かを手に入れることはできません。しかしそうした状況を知ってもなお挑戦をしない人が多いのはなぜでしょうか。  その一つの理由として、ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者、ダニエル・カーネマンらが指摘した「損失回避性」が挙げられそうです。この性向を簡単に言えば、人は誰しも損をすることを怖がり、得を取るよりも損をすることに敏感、ということになります。

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同じサイズの利得と損失を比べたところ、利得に対し、損失に伴う感情的なインパクトは1・5倍から2・5倍程度あることが分かっています。特に最初の損失についての感じ方ほど激しく、次第に緩やかになる傾向があるようです。

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この章のまとめ ・起業家のリスクの取り方はハイリスク・ハイリターンばかりではありません。賢いリスクの取り方は存在します。 ・アンチフラジャイルやバーベル戦略といった、「抗脆弱性」の考え方を身に付けて、世界の不確実性や脆弱性をよい方向に利用しましょう。 ・「運」は挑戦する回数に依存します。その回数を増やすためにも、一度あたりの挑戦を早く、安くしていく必要があります。そしてこうした「速度」はコントロールできます。 ・長く挑戦するためにも「大きな負け」を避けながら賭けることが重要です。周囲を裏切り、二度と挑戦できないような状態に陥らないよう、予測可能な範囲内で上手に失敗できるような挑戦を続けてください。 ・スタートアップはパイを取り合うゲームではなく、むしろパイを大きくするゲームです。まわりの起業家たちと協力しながら、新しい価値を作っていきましょう。

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