valid,invalid

関心を持てる事柄について

『高い城の男』

もしドイツと日本が戦争に勝っていたら世界はこうなっていただろうか…という思考実験、平行世界もの。序盤を読み進める中で、第二次世界大戦前後の歴史に関する基礎的な知識がないと楽しみが半減してしまうと思って少しおさらいしてから読み始めた。

「もしも連合国が枢軸国に勝利していたら*1という歴史改変小説『イナゴ身重く横たわる』の著者、高い城の男に会いに行く」という終焉に向けて収束するメインストーリーはあるものの、無関係に言える登場人物が多く登場する群像劇になっている。人物の内面描写は多めだが行動原理や規範がずいぶんかけ離れた人ばかりで感情移入しにくく、幾分読みづらかった。物事がうまく進んでいそうなのになんだか結局ダメになってしまう…みたいな不能感の描写がバッドトリップぽくてそのあたりにそこはかとないSF感を見出すとやや楽しくなってくる。

Amazon Prime のドラマ版)も見てみようかな。

主題

本作の主題は"本物と偽物"、"選択と結果"というところにあると思った。「なんだか結局ダメになってしまう」とか「選択を間違えた」というようなネガティブマインドはこれと大きく関わっているし、展開される各々のストーリーに共通している。選択をするのにいちいち易経に頼る人物たち、自分の人生が自分のものではない、または世界が偽物であるような違和感…メタフィクションの感覚(ジュリアナは最後には易経を通して『イナゴ身重く横たわる』に描かれた世界こそが真実の世界だと知るわけだが)。

戦争観

『高い城の男』を読んで「やっぱり連合国が戦争に負けてよかったね〜〜〜」みたいな感想も見るがそれは違う気がするんだよな…。日本はそれほどひどくないものの、たしかに作中のドイツも扱いは結構ひどい。反ナチ派は粛清されているし、ナチズムが広がった世界はある種のディストピアだ。とはいえ必ずしもこうなりえただろうか?「勝たなければこうなっていたんだ」と現状肯定するのは戦勝国側の論理であって、敗戦やそれに伴う艱難辛苦の正当化や納得にはならないのでは。(まぁそこは主題ではなさそうなので読中はあまり気にならなかったがそういう感想を見かけたので)

ハイライト

あまりない


われわれの人生という、この恐ろしいジレンマ。なにが起こるにしても、それは比類のない悪にちがいない。では、なぜじたばたあがく? なぜ選択する? もし、どの道を選んでも、結果はおなじだとすれば……。

Read more at location 5606


どこか別の世界では、たぶん様子がちがっているだろう。もっとましだろう。善と悪の選択の道がはっきりしているはずだ。こんな曖昧な灰色の混合物ではないはずだ。しかも、もつれあった要素をほぐそうとしても、まともな道具さえない。

Read more at location 5613

*1:すなわち我々の現実世界